プロジェクトの詳細
1998 年、2002 年、2004 年の各年の初めの数カ月に、オーストラリアのグレートバリアリ ーフをはじめとする世界各地のサンゴ礁で、多くのサンゴが褐色から鮮やかな白や紫、緑 に変わりました。サンゴがこのように「漂白」したようになることを、サンゴの「白化」 と呼びます。その原因は、サンゴの組織内に生息する共生生物の渦鞭毛藻類(藻類)が失 われることです。健康なサンゴでは、藻類がサンゴにエネルギー(糖類とアミノ酸)を供 給し、その見返りに生存に不可欠な物質(アンモニアとリン酸塩)をサンゴからもらって います。
オーストラリア、ヘロン島の礁原。2001 年3月(上)と2002 年3月(下)。2002 年の白 化現象の規模の大きさが分かります。

サンゴの色をコーラルウォッチのチャートに照らし合わせるだけです。この健康なノウサ ンゴは暗褐色で、カラースコアはE6です。
白化現象が起きると、サンゴの組織から褐色の藻類が姿を消すため、色が変わったように 見えます。このように、サンゴの中の「栄養工場」が失われると、サンゴは死ぬことがあ り、またゆっくりと回復することもあります。1998 年に起きた大規模なサンゴの白化現象 は、史上最も深刻なものと見られ、世界中のサンゴ群体のおよそ6分の1が死滅しました。
さまざまな環境ストレスが白化を引き起こす可能性がありますが、地球温暖化に起因する 海水温度の上昇が、近年見られる大規模な白化現象の発生の大きな原因であることが分か っています。冬には海水の温度が低下するので、死に絶えなかったサンゴが白化を克服し、 共生生物が戻ってくる可能性があります。
しかし、サンゴは生き残ったとしても、生殖能力が低下するため、サンゴ礁全体が長期的 なダメージを受けます。海水温度の上昇は続くと予測されるため、白化現象が発生する頻 度は高まり、数十年の間に世界のサンゴ礁のかなりの面積が死滅すると考えられています。
オーストラリアのクイーンズランド大学では、ペンキの色見本のような簡単なカラーチャ ートを使ってサンゴの健康状態をモニタリングする方法を、最近開発しました。これは、 VTHRC(視覚・触覚・聴覚研究センター、Vision, Touch and Hearing Research Centre) の世界的な視覚と色彩の専門家と、CMS(海洋研究センター、Centre for Marine Studies) の世界的なサンゴの専門家が手を組むというという異例のパートナーシップから生まれた ものです。
現在行われているサンゴの白化現象監視の試みの多くは、高価な衛星搭載技術を必要とし たり、研究者が活動している地域に限定されたり、生理学的分析のために生きた組織を試 料として採取しなければなりません。私たちが開発した、カラーサンプルを使うサンゴ礁 のモニタリング方法は、安価で「使う人にやさしく」、サンゴに負荷をかけない手段によっ て、比較的大きな規模で有効なデータを提供するという初めての試みです。
カラーチャートは、科学者でも、学生でも、旅行者でも、政治家でも、どんな人でも使う ことができます。あらゆる人が世界的なサンゴ礁監視プロジェクトに参加できる機会を提 供することは、地球温暖化から予測される結末を突きつけられた多くの人が感じている無 力感を払拭するのに役立ちます。これがこのプログラムの重要な点です。また私たちはこ の監視プログラムによって、サンゴの白化とそれがサンゴ礁に及ぼす破壊的な影響につい て人々を教育することも目標としています。
カラーチャートは白化したサンゴと健康なサンゴの実際の色を基にしています。彩色され た正方形それぞれが、サンゴの組織に含まれる共生藻の密度に対応しています。共生藻の 密度はサンゴの健康度に直結しています。観察者はサンゴの色をカラーチャートと比較し、 対応する色を選ぶだけでいいのです。対応する色のコードを、サンゴのタイプ(できれば 種の名前も)とともに、ウェブサイト(www.coralwatch.org)に記録します。

このサンゴの先端は、共生藻をほとんど失っているため、健康的な褐色(枝の間に見られ るような)から、紫と白に変色しています。紫や青のサンゴの色は、共生藻ではなくサン ゴ自体の色素によるものであり、色素と水温の関係は共生藻と水温の関係とは異なるため、 チャートを使って評価することはできません。
世界的な規模でのサンゴの白化現象の傾向については、ほとんど分かっていません。現在、 サンゴの健康状態のモニタリングが行われているのは、主として、科学者が定期的に訪れ ている少数のサンゴ礁だけです。サンゴ礁を救うためには、答えを出さなければならない 多くの問題があります。あなたが貢献できるのはここです。あなたのような多くの人々が 世界中で監視プログラムに参加すれば、私たちは次のような問題に答えを出すことができ るのです。
白化現象の広域的パターンと狭域的パターン
海水温度の測定値と海流についての知識から、どの海域が将来白化現象に見舞われるかを 予測することができます。私たちは中でも、次のような問いに答えを出したいと思ってい ます。エルニーニョが発生すると、すべてのサンゴ礁に白化現象が起きるのでしょうか、 それとも、白化現象が起こらないサンゴ礁やサンゴ礁の部位があるのでしょうか。同じサ ンゴ礁に毎回白化現象が起きるのでしょうか。
サンゴの白化の期間と程度
さまざまなサンゴ礁は、どれくらいの期間、白化現象の影響を被るのでしょうか。世界各 地のサンゴ礁の白化現象は、どの程度深刻なのでしょうか。過去に白化現象が起きたかど うかによって、白化現象の期間と被害の程度は違ってくるのでしょうか。サンゴ礁全体の 健康度は、白化現象が起きるたびに悪化するのでしょうか。
回復の広域的パターンと狭域的パターン
これまでの研究は、白化現象の発生に注目するものがほとんどで、白化からの回復には余 り目が向けられていませんでした。多くの方々のご協力で、回復状況の測定が可能になり ます。さまざまなサンゴ礁は、水温が低下した後、どれくらいの期間で回復するのでしょ うか。サンゴ礁によって、あるいはサンゴのタイプによって、回復に必要な時間に差があ るのでしょうか。

サンゴ全体では自然な色の差異があるので、最も薄い色のスコアと最も濃い色のスコアを 記録してください。ウェブサイトでの分析では、平均スコアを用います。
ウェブサイトでは、結果を右のようなグラフにして示すことができます。このグラフは、 白化して不健康なサンゴの色のスコア(1~3)と、回復後の健康的な褐色のスコア(2 ~6)の差をよく表しています。
送信されたすべてのデータは、分析の後、プロジェクトのウェブサイトで公開します。皆 様のご協力により、世界中のさまざまな地域のデータが入手できるようになります。その 結果、ある時点でのさまざまなサンゴ礁の状態を比較したり、1 つのサンゴ礁の状態を経時 的に比較したりすることができます。
コーラルウォッチのチャートを利用すれば、世界中の誰でもが住んでいるところや旅先で サンゴ礁の健康状態をモニターすることができます。
忘れずにデータをウェブサイトで入力してください。または、E メールか郵送でデータをお 送りくだされば、こちらで入力します。
白化の原因となるその他の現象
多くの人々の協力により、白化が発生したときだけではなく、年間を通してサンゴの健康 状態を監視できるようになります。健康なサンゴも季節によって多少色が変化しますが、 通常の変動範囲を超える色の変化が起きたとき、すぐに異常を把握できるように、自然な 変動を測定しておくことが重要です。こうすることによって、年間を通して、サンゴの健 康に影響を及ぼしかねないその他の要因を発見できるようになります。
このプロジェクトから得られた結果は、遠隔探査や視覚の生理学、サンゴの健康に関する 複雑な技術を駆使した並行プロジェクトによって裏付けを得ると同時に、同プロジェクト に対して情報も提供しています。ウェブサイト:http://www.vthrc.uq.edu.au/ecovis から "Prawn in Space"をクリックしてください。
コーラルウォッチのヘルスチャートの使い方に、厳密な決まりはありません。研究や教育、 あるいは単なる好奇心など、あなたのニーズに合うように、使い方を考えてチャートを取 り入れてください。レジャーとしてのダイビングを楽しんでいるときに、チャートを使っ てサンゴの白化を測定するのもいいでしょう。科学的プロジェクトでは、決まった観察ラ インに沿って定期的にサンゴをモニターするのに使えます。地元のサンゴ礁の現状を知り たいというときにも利用できます。チャートであなたはどんな活動をしているのかを、私 たちにぜひ知らせてください。
次のようなグループがチャートを利用しています。
オーシャンウェイ・コーポレーション・リミティッドOceanway Corporation Limited は、 リーフチェックの活動に参加して実施する調査にコーラル・ヘルス・チャートを採用し、 香港のサンゴの状態の判定とモニタリングを行っています。また、付近での浚渫などの海 洋土木工事の影響を受けているサンゴの生息区域の健康状態を監視するのにも、チャート を使っています。中間報告では、群体に標識をつけて一時的にモニタリングすることが、 サンゴの健康状態のわずかな変動を検出するのに非常に有益であり、持続可能な「工事の 進行速度」とその後の回復に必要な「休息期間」の算出に利用できる可能性があることが 示唆されています。同社はチャートを利用した調査に基づく提案を、香港政府に提出しま した。
バヌアツ、マレーシア、オーストラリアなどでリーフチェックの活動を行っている多くの グループが、定期的な調査にチャートを採用し、サンゴ礁の状態の監視に役立つ新たな情 報を提供しています。
オーストラリア、グレートバリアリーフのボヤージュ・ヘロンアイランドリゾートは、コ ーラルウォッチのプログラムの構想が生まれたときからの支持者です。同リゾートでは人 気の高い教育プログラムであるリーフウォークにチャートを取り入れ、滞在客にバカンス の時間を少しだけ提供してサンゴの白化現象のモニタリングにしてもらうよう呼びかける ことによって、プロジェクトの認知度を高めることに貢献しています。リゾートを訪れる 多くの人は、まずサンゴの白化現象について質問します。よく聞かれる「私に何かできる でしょうか」という質問に対して、コーラル・ヘルス・チャートは、シンプルで実用的、 効果的な答えとなっています。
クイーンズランド大学と地元の海洋教育学者の12 カ月にわたる協力によって、サンゴ礁教 育パッケージが完成し、ご注文いただけるようになりました。パッケージには以下が含ま れます。※現状英語版のみ
- コーラル・ヘルス・チャート、1 クラス用セット(30 組)
- コーラル・ヘルス・チャート使用の手引き
- 授業でチャートを利用する方法を概説した、22 ページの文書
- 以下を含むCD 手引き(必要に応じて編集、印刷が可能) リーフ・フィンガープリント(Reef Fingerprint©)とリーフ・トランセクト(Reef Transect©)のデータ分析用Microsoft Excel スプレッドシート バーチャルリーフとバーチャルラボのMicrosoft Powerpoint プレゼンテーション
- バーチャルトランセクトのポスター(140×60cm)
- バーチャルリーフとバーチャルラボのすべての画像のハードコピー
- ダイビング/スノーケリング用データ記録スレートのサンプル
Siebeck, UE., Marshall, NJ., Kluter, A. & Hoegh-Guldberg, O. Fine Scale monitoring of Coral Bleaching Using a Reference Card(準備中)
Hoegh-Guldberg, O. 1999: Climate change, coral bleaching and the future of the world’s
coral reefs. Marine and Freshwater Research 50: 839-866.
著者―Justin Marshall 、Ulrike Siebeck、Kylie McPherson (クイーンズランド大学 VTHRC) Ove Hoegh-Guldberg(クイーンズランド大学CMS)、Kylie Jennings(クイーンズランド大学、ヘロン島研究ステーション)
連絡先:
info@CoralWatch.org
ウェブサイト: www.CoralWatch.org